2 委任契約の問題点と契約文例
(1)委任契約の基本事項

1)委任者、受任者の義務

 委任の場合においても受任者(ソフトウェア会社)は、当然、種々の義務を負う。受任者は、委任の趣旨に従って「善良な管理者の注意義務」をもって委任事務を処理(システ
ム開発のための役務提供)しなければならない(民法644条)。すなわち、ソフトウェア会社は、ソフトウェア会社が通常有している注意能力をもってサービスを提供しなけれ
ばならないわけだ。

 このほか、受任者は、

  ① 委任者から請求があった場合はいつでも委任された事務の処理状況を報告しな ければならず、委任の終了後は遅滞なくそのてん末を報告しなければならない (民法645条)

  ② 委任事務の処理にあたって受領したものを委任者に引き渡さなければならない (民法646条1項)

  ③ 委任者のために、受任者の名前で得た権利を委任者に引き渡さなければならな い(民法646条2項)

などの義務を負っている。

 これに対して委任者は、

  ① 委任事務を処理するにあたって費用が必要なときは受任者から請求があり次第、これを前払いしなければならない(民法649条)

  ② 受任者が必要な費用を支出したときはその費用および利息を償還しなければならない(民法650条1項)

  ③ 受任者が委任事務を処理するにあたって必要な債務を負担したときは受任者に 代わってその債務を負担しなければならない(民法650条2項)

  ④ 受任者は委任の事務処理にあたって、受任者に過失がないのに損害を受けた 場合はそれを賠償しなければならない(民法650条3項)

といった義務を負う。また、受任者の責めに帰することのできない事由によって、委任事務の処理中に契約が終了したときは、委任者はすでになされた履行(サービスの提供)の割合に応じて報酬を支払わなければならない(民法648条3項)。

2)下請けの利用

 請負の場合は、請負人は仕事の完成義務があり、このことに重点があるので、請負人自身で仕事を完成させないで第三者に依頼して完成させてもよい。

 これに対して委任の場合は信頼関係を基礎におくことから、原則として第三者に再委託
することはできない。

3)報酬の支払い

 委任の報酬は後払い(委任事務の処理後)が原則であるが、一定期間いくらというような定め方もできる(民法648条2項)。

 また、請負の場合も後払いが原則である(民法633条)。前払いとすることも可能であるが、仕事が完成しなかった場合は返還しなければならない。

4)提供したサービスに欠陥があった場合

 請負目的物に瑕疵(かし)あった場合、請負人は瑕疵担保責任を負う。瑕疵担保責任は無過失責任である。注文者は相当の期間を定めて修補を請求できる(ただし、瑕疵が重要でなく修補に過分の費用がかかるときは損害賠償を請求できるだけである)(民法634条1項)。瑕疵が重大で契約の目的を達成することができないときは契約を解除することができる。

 瑕疵担保期間は請負目的物を引き渡したときから1年である(民法637条1項)。注文者は引き渡しを受けてから1年以内でなければ、瑕疵の修補請求及び損害賠償の請求、契約解除はできない。

 これらは当事者間において任意にその責任を増減することができ、瑕疵担保責任をまったく負わないようにすることも可能である。

 では委任の場合はどうなるのであろうか。例えば、提供したサービスに誤りがあった場合である。受任者は瑕疵担保責任もしくは債務不履行責任を負う。どちらの責任を負うかについては見解が分かれているが、請求者は過失の立証を要しない瑕疵担保責任を追及してくると思われる。

 債務不履行責任は過失責任であり、過失がなければ責任を免れる。この場合の過失の有無は、ソフトウェア会社が通常有すべき注意力ということによって判断される。注意力の水準は、その時点の技術水準などによっても変化する。

 また、有力企業であればあるほど過失判定の基準は厳しくなる。債務不履行責任の損害賠償請求権は5年で消滅時効にかかる(商法522)。つまり、請負の瑕疵担保責任は1年間で免責されるのに対し、債務不履行責任では5年間といった長期間、責任を問われることになる。

5)仕事が完成しなかった場合

 請負において仕事が完成しなかった場合、債務不履行責任を追及される。また、当然代金も支払われない。

 これに対して委任の場合は、適正なサービスを提供する限りにおいてその責任を免れることができ、サービスの提供に見合った報酬(代金)を得ることができる。

6)仕事が期日に間に合わなかった場合

 期限を決めたらどうなるのであろうか。請負契約においては通常納期が決められる。そ
してこれに1日でも遅れれば履行遅滞として債務不履行の問題となってくる。

 では委任契約において納期、すなわち、事務処理の期限を決めたらどうなるのであろう
か。委任の場合においても納期を決めた場合は、それに遅れれば債務不履行責任を問われることになる。

 

 

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01/07/25