第5章  ソフトウェア会社の損害賠償義務と

責任制限の各種契約文例

 

1 ソフトウェア会社が負う責任と問題点
(1)瑕疵担保責任、債務不履行責任、不法行為責任

 本書で述べていることは究極的には、損害賠償をいかにして免れるかということに収れんしていく。

 これは、別にソフトウェア会社が不公平に責任を免れるということではない。コンピュータプログラムというのは、ケースによっては損害額が天文学的数字になることがある。損害賠償義務を合理的範囲に限定しないと、莫大なコストとなってしまい取引自体が成立しなくなるからである。このあたりが一般の物の取引とは異なる点である。

 そこで、まず、損害賠償の制限をしなかったら、どういう責任が生じるか、ということから考えてみたいと思う。 

1)ソフトウェア会社が負う責任

 民法から発生する責任として、①債務不履行責任、②瑕疵担保責任、③不法行為責任の三つが考えられる。 

 例えば、甲がソフトウェア会社であるA社に販売管理システムの開発を委託したところ、請求書発行のシステムに欠陥があったというケースを想定して以下、説明していく。

 甲の損害としては、①プログラム開発にあたってA社に支払った金額、②請求書発行システムの変更に伴う費用、③請求書が発行できなくなったためその期間に貸し倒れとなってしまった逸失債権、④A社にかえてB社に発注したための諸経費などが考えられる。

 ①債務不履行責任とその類型

  このような損害をA社に請求する根拠としてまず考えられるのが、民法415条の債務
 不履行責任に基づく請求である。この場合、債務者(ソフトウェア会社)に過失があるこ
 とが前提となる。

 第415条(債務不履行による損害賠償) 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ

 債務不履行といっても三つに分けられる。                    

 一つは「履行不能」、もう一つは「履行遅滞」、三つめは「不完全履行」である。履行不能というのは、最善の努力をしたが完成しなかったということである。

 履行遅滞というのは、納期の遅れのことである。

 不完全履行というのは、契約の履行が不完全であった場合のことである。

 この三つの債務不履行について、それぞれ対策を立てなければならない。

 ②瑕疵担保責任

 次に考えられるのが、瑕疵担保責任に基づく請求で、これは民法570条にその規定が
ある。

 第570条(売主の瑕疵担保責任) 売買ノ目的物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ第566条ノ規定ヲ準用ス 但強制競売ノ場合ハ此限ニ在ラス

 第566条(用益的権利による制限がある場合の売主の担保責任) 売買ノ目的物カ地
上権、永小作権、地役権、留置権又ハ質権ノ目的タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得其他ノ場合ニ於テハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得

 ② 前項ノ規定ハ売買ノ目的タル不動産ノ為メニ存セリト称セシ地役権カ存セサリシト
    キ及ヒ其不動産ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ準用ス

 ③ 前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事実ヲ知リタル時ヨ
    リ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス

 これは売買の瑕疵担保責任についての規定であるが、すべての有償契約に適用される。債務不履行の責任との違いは無過失責任であるということである。その目的物に瑕疵があるときは、A社に過失があろうとなかろうと、A社が責任を負わなければならないわけである。

 ③不法行為責任

 最後に問題となるのは、民法709条の不法行為責任である。この民法709条は、交通事故や公害のように契約関係がない場合に問題となる条文である。

 第709条(不法行為) 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス

 ここでは「他人が不法行為によって損害を与えたら責任が生ずる」と定めているので、このケースでも適用できる条文である。

 学説では、債務不履行責任が問われたら、不法行為責任は問われないとしているが、判例はどちらで請求してもかまわないといっている。そこで、実務上は、債務不履行責任、瑕疵担保責任、不法行為責任の三つを請求原因として、どれか一つが認められればよいとして損害賠償を求めることも可能である。

2)損害賠償の範囲

 次に、この三つの責任の損害賠償の範囲が問題となる。瑕疵担保責任は無過失責任のため、他の二つと損害賠償の範囲が異なってくると考えるのが合理的であろう。賠償額は、基本的には完全なものと現実に提供したものとの差額を賠償する差額賠償であるといってよい。完全なシステムの対価は100万円であるが、欠陥があり価値がゼロとすると、賠償額は差額である100万円ということになるわけで、これが限度である。

 債務不履行責任と不法行為責任の場合、損害賠償の範囲は同じであるが、これは「通常損害」と「特別損害」とに分けられる。

 通常損害とは文字通り、通常に発生する損害という意味で完全賠償をしなければならない。特別損害というのは、特別な事情で発生する損害という意味で、特別な事情から生じる通常発生する損害ということである。

 このほか特別な事情から発生する特別な損害というものがあるが、これは賠償する必要はない。この特別損害は、完全賠償でなく、契約締結時にその損害を債務者(本例ではソフトウェア会社)が予見したか、予見し得た場合に限って損害賠償しなければならない。

3)挙証責任                                 

 債務不履行責任と不法行為責任は損害賠償の範囲は同じであると述べたが、違いは挙証責任がどちらにあるかという点である。不法行為責任では、賠償を請求する人が「相手の過失」を立証しなければならないが、債務不履行責任では、逆に債務不履行をした方が「過失がなかったこと」を立証しなければならない。

 このようなことから、請求者にとっては契約関係にあれば、請求者に挙証責任のない債
務不履行で請求したほうが有利である。

 

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