第4章  ソフトウェアの瑕疵担保責任と各種契約文例

 

 コンピュータソフトウェアの欠陥と責任
(1)コンピュータソフトウェアの欠陥と瑕疵担保責任 

 一般の商品の売買では、「××の性能を保証します」という保証をすることがよくある。しかし、プログラムの開発では新規に開発したプログラムを保証することはきわめて危険なことである。

 情報提供型のサービスでは提供するデータの正確性について保証することは避けたほうがよい。情報処理サービスの場合、出てきた計算結果などについて保証することは禁物である。

 このことついて何の取り決めもなければ、民法の瑕疵担保責任の規定が適用される。

1)瑕疵とは

 瑕疵というのは“欠陥”である。すなわち、契約内容と照らしてみて性能などの点で不完全な部分があり、ユーザーが期待していた性能、ソフトウェア会社が保証していた性能などが備わっていないことをいう。

 また、提供したものが著作権などの第三者の権利を侵害していた場合も瑕疵である。

 しかし、瑕疵担保責任で問題となる瑕疵とは「隠れたる瑕疵」である。これは表面に現われていない部分や引き渡しを受けた際に通常の講入者がある程度注意しても分からない瑕疵のことである。

 建物を例にとると、室内装飾や建具などの瑕疵は、引き渡しの際、容易に発見できるので「隠れたる瑕疵」にはあたらないといえる。しかしコンピュータプログラムの瑕疵というのは、すべてが「隠れたる瑕疵」と考えてよいであろう。

2)瑕疵担保責任と無過失責任

 取引の目的物に瑕疵があった場合、その目的物の提供者は無過失責任を負う。すなわち、過失の有無にかかわらず瑕疵が存在したということだけで責任を負わなければならない。このように無過失責任であることから、過失があったときのみ責任を負う債務不履行責任とは損害賠償の範囲も異なっていると考えるのが合理的であろう。

 ただ、瑕疵のあるものを引き渡した場合、そのものが不完全であることから債務不履行の一類型である不完全履行を構成するか(未だ引き渡しが完全に行われていないとするか)、それとも一応引き渡し義務を履行したということを前提とする瑕疵担保責任とするかが問題となる(後述)。

3)瑕疵担保責任の損害賠償の範囲

 瑕疵担保責任による損害賠償の範囲については、①対価制限説、②信頼利益説、③履行利益説の各説がある。

 対価制限説というのは、損害賠償の範囲を代金額と瑕疵のある目的物の価格との差額に限るとする立場である。一方、履行利益説というのは、契約が完全に履行された場合に相手方が得たであろう利益を損害と認める立場である。信頼利益説というのは、瑕疵がないと信頼したことによって支出した損害を認めようとする立場である。

 損害額は対価制限説が最も少ない。対価制限説の立場では、「瑕疵担保責任の損害賠償の範囲は、買主が負担した代金額から売買契約締結当時における瑕疵ある目的物の客観的取引価格を控除した残額に制限される」わけである。

 また、信頼利益説の立場に立つ事例として以下の昭和40年9月30日の名古屋高裁
の判決がある。

 「そもそも特定物の売主の瑕疵担保責任は、売買の目的物に原始的な瑕疵が存在するため、売買契約が、その給付不能の範囲において無効である(従って法律上不履行の問題の生ずる余地がない)ことを前提とする法定無過失責任であるから、契約の有効であることを前提とする債務不履行による損害賠償責任の場合と異なり、その損害賠償の範囲は、契約が完全に履行された場合に相手方が得たであろう利益(いわゆる履行利益)には及ばず、相手方が瑕疵のないものについて売買契約が完全に成立したと信頼したために蒙った損害(いわゆる信頼利益)に限ると解するのが相当であるが、この場合その信頼による特別事情から生じた損害については民法第416条第2項を準用して然るべきものと考える。

 すなわち右信頼利益のうち通常生ずべき損害として考えられるものは、買主が負担した代金額から売買契約当時における瑕疵ある目的物の客観的取引価格を控除した残額であり、通常はこれを賠償することをもって足りることになろう。しかし右以外の損害でも、買主が瑕疵を知らなかったことに因る損害は、信頼利益に属するから、相当因果関係の認められる限り、特別事情による損害として売主においてこれを予見しまた予見し得た場合には、買主においてその賠償を請求できるものというべきである」(時報435号44頁)

 昭和47年2月29日の東京地裁の判決は、旅館の建築請負工事につき瑕疵があったとして、旅館の客室使用不能による逸失利益を損害として認めており、これは履行利益説の立場に立つものといえよう。

 瑕疵担保責任の損害賠償の範囲は、瑕疵担保責任が無過失責任を前提とする以上、過失責任を前提とする債務不履行責任における損害賠償の範囲より限定する必要があると考えており、このことから対価制限説が妥当であると思っている。しかし、瑕疵担保責任の損害賠償の範囲については学説、判例とも見解が分かれているので、なによりも契約で責任の制限をすることが実務上の対策となろう。

4)瑕疵担保責任の期間

 売買の場合は瑕疵を知った時から1年間であるのに対し、請負の場合は引き渡しから1年間である。

5)瑕疵担保責任を負わない特約

 瑕疵担保責任を負わない特約も有効である。ただし、瑕疵が存在していることを知っていたにもかかわらず告げなかったことについては責任を免れない。また、法律上認められている損害賠償請求権や契約解除権を排除して、修補請求権のみに代える特約、瑕疵担保責任の期間を短縮する特約、売買における瑕疵担保期間の始まりを引き渡しとする特約もすべて有効である。

 

目次