第3章 機密保持の問題点と各種契約文例 |
1 機密保持契約の問題点と契約文例 | |||||||
機密保持と一口に言っても、①ユーザーの機密、②プログラムなどについてのソフトウェア会社の機密、③退職した従業員に対する問題などがあるが、本章では主として①と③の問題を取り上げる。 (1)ユーザーの機密保持 1)機密の指定の仕方 漠然と「提供された資料を機密に保持するものとします」といった取り決めでは、どこからどこまでが機密なのかの範囲が常に問題となってくる。そのような漠然とした取り決めだけでは、本来の目的とする効果が十分発揮できないという恐れが出てきてしまう。 そこで、「機密とは何か」ということについて明確に定義付けができないときは、まず形式的に機密の範囲を明確にしておかなければならない。例えば、「機密」という印を押すことによって、機密資料とそうでない資料とを区分することも一方法であろう。また、「機密資料受領書」で特定することもできる(契約8)。 また、資料の性質によって分けることも考えられる。例えば人事の資料、財務の資料、営業の資料といったように資料の性質に応じて一括して機密とするように取り決める方法もある。これももう少し具体的に人事の給与に関する資料、製品の原価に関する資料、営業の得意先に関する資料というように細かく定めることもできる。 場合によっては、資料名を具体的に列記し、別に機密保持契約(契約1~3)を締結することでもよい。このような契約がなくても特定の会社の特定の人事、財務、営業などに関する機密資料には、契約終了後も法的に機密保持義務が課せられていると考えられるので、その守秘期間についても定めておかなければならない。 資料の性質によっては相当長期間にわたって機密保持しなければならないものもある。例えば、人事に関する資料などはその一例といえる。このように、資料の性質によって10年とか、5年とか、2年というように守秘期間を定めておく必要がある。 2)ソフトウェア開発契約におけるユーザーの機密保持の契約文例 文例1は、最も一般的な機密保持条項の例であるが、前述したような問題がある。 文例2は、機密保持の対象を限定した例である。この契約は委任型のソフトウェア開発契約の例である。まず、機密に扱う資料を「明確に機密であると指定されたもの」と限定している。文例2では、「乙の同種の資料と同等の」というところがポイントである。すなわち、甲と同様、乙が企業である以上、人事、財務などの機密資料がある。 ここでは、これらの機密保持について限界を定める意味で、乙が自社の人事、財務の機密書類にはらっているのと同程度の注意をするということで無制限の善管注意義務に限界を設けたわけである。すなわち、機密保持の義務の限界を自己の水準に合わせたわけである。甲と乙とに機密保持のギャップがある場合などは、施錠の方法、管理責任者など機密保持の方法を具体的に定めておくことも一方法である(契約7)。 第2項は、すべての資料に守秘義務を負わせることは、乙の責任が過重なものになってしまうので、乙の負担を軽減するための条項である。 文例3は、機密保持規約に従って機密を保持することによって、ユーザーから提供される資料の機密保持義務の範囲を明らかにした例である。 <文例1 最も一般的な例>
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