第12章  ソフトウェア譲渡契約書

 

1 プログラム譲渡契約の問題点と契約文例

 次にプログラムの譲渡契約、すなわち売買契約の各条項について検討し、契約文例をみていくことにする。

 売買というのは、「一方がある財産権を相手方に与えることを約し、相手方がこれに代金を支払うことを約束する契約」である(民法555条)。             

 この譲渡契約で問題となることは、一つはプログラムの保全、すなわち複製の問題であり、もう一つはプログラムなどの瑕疵の問題である。

(1)プログラムの譲渡契約と契約文例

1)表 

 譲渡契約の表題としては、「ソフトウエア譲渡契約」「プログラム売買契約」というのが一般的であろう。

 売買契約では、「仮」とか「予約」という言葉が前に付き、「仮譲渡契約」「売買予約契約」といった名称が使用されることがある。

 ①仮契約

 売買や賃貸借の契約では、仮契約、予約契約、本契約といったようにさまざまな名称が使用されている。

 契約の成立の原則は、「売って下さい。売りましょう」という意思の合致である。そこで、当事者、目的物件、売買代金などの合意があれば口頭でも契約が成立していると考えてよい。

 仮契約という用語は法律用語でなく取引用語である。「よいものなので買いたいが、社長の帰国が○○日になる」とか、「一応、契約の締結はするが、当事者が任意に解約できるようにしたい」といった、さまざまな事情が考えられるが、とにかく確定的な意思が定まらないため便宜上使用しているのである。しかし、「仮契約」といっても、前述したような契約の内容が定まっていれば、それは立派な「本契約」である。

 こうなると、仮契約といっても一方的に解除できるわけではない。実務上の必要上から仮契約ということにするのであれば、「当事者どちらか一方の意思表示によりて解約できる」旨を定めておくことが必要である。そうでなければ、本契約にして「手付」という方法をとったほうがよい。

 ②予約契約

 予約というのは法律にその規定がある。民法556条1項は、「売買ノ一方ノ予約ハ相手方カ売買ヲ完結スル意思ヲ表示シタル時ヨリ売買ノ効力ヲ生ス」とある。この規定は売買となっているが、他の有償契約にも準用される(民法559条)。

 予約によって本契約を締結する権利のある者が、相手に対して「予約を完結する」旨の意思表示をすれば、それだけで相手の承諾などは必要としないで本契約が成立する、というわけである。

 すなわち、「予約完結の意思表示を停止条件とする契約」と考えられている。この権利を「予約完結権」といっているが、当事者の一方が持つ場合(一方の予約)と双方が持つ場合(双方の予約)とがある。このようなものが予約であって、例えば「あらためて双方の意思が合致したら本契約は成立する」というのは法律上の予約ではない。

2)前 文

 ここでは、当事者を特定するとともに、対象機械及びプログラム(名称、目的)を特定
している。

  <文例1>
 ○○○株式会社を甲とし、○○○システム株式会社を乙として、以下の条項でもって乙が権利を有する別紙の機械構成で使用する別紙のコンピュータプログラムの譲渡契約を締結する。 


3)物件の特定

 まず売買目的-すなわち引き渡す物件を特定しなければならない。ソフトウエアの売買では、プログラムを記録した媒体のほか、プログラムリスト、取扱説明書などの印刷物が提供されるが、これらを詳細に特定しておく。

  <文例2>

 第○条                           

 本契約に基づき乙は甲に対して下記の物件を譲渡するものとします。   


4)対象業務

 ケースによっては、対象業務、すなわち購入したプログラムを何に使用するか、ということを特定しておく必要があろう。これは、後で述べるプログラムの保全ということと関係してくる。

 <文例3>

第○条                                   

 甲は、本件プログラム等を、甲自身のための○○処理業務ためにのみ使用するものとします。                                  


5)譲渡代金

 言うまでもなく、次に代金とその支払方法及びケースによってはその代金の対象範囲を明確にしておく必要がある。

 ここで一般論ではあるが一つの問題がある。契約締結時にプログラムなどを引き渡さずに一部の金銭が交付された場合である。これをどうみるかということであるが、代金の2割程度の金銭の授受は「解約手付」とされるのが一般的である。すなわち、買主(ユーザー)は手付を放棄し、売主は手付の倍額を返還して契約の解除ができるわけだ。ただし、履行の着手-ここではプログラムなどの引き渡しが行われた場合はもはや解除ができなくなってしまう。

 <文例4>

 第○条  

 本契約に基づき乙が甲に譲渡するプログラム等の譲渡代金は金○○○○○円とし、甲は乙に対して本件プログラム等の引渡日に2分1を支払い、残額は第○条のテスト期間終了後○日以内に支払う。  

                                        
6)引き渡し費用など

 プログラムなどの引き渡しが後になる場合、引き渡し日及び引き渡し場所などを明確にしておく。文例5は、引き渡し場所及びその費用負担を定めたものである。

 民法558条では、「売買契約の締結に要する費用は、特約がなければ両当事者で平分して負担する」と定めている。すなわち折半ということである。ここでいう売買費用としては印紙代などが代表的なものであり、目的物(プログラムなど)の引き渡しに要する費用は債務の履行費用であり、これは、債務者(引き渡し義務を負っているソフトウエア会社)が負担しなければならない。

 また、引き渡し場所は、特定物(例えば土地建物)と特定物以外の物(不特定物=例え
ばビールとかいった一般の商品)とに分けられる。ここで問題としているコンピュータプログラムというのは不特定物といえる。不特定物については債務者(ユーザー)のところまで持って行かなければならない。これが法律の原則である。しかし、これらは任意規定なので当事者間で自由に決められる。

 <文例5>

 第○条                                  

1 乙は甲に対して本件プログラム等を本契約締結の日から10日以内に、甲の指定  する場所にて引き渡すものとします。                  

2 前項の甲の指定場所が東京都内である場合は、その運送費用及び乙の担当員  の派遣費用は乙の負担とし、それ以外の地域においては、その運送費用及び乙  の担当員の派遣費用(宿泊旅費、交通費)は甲の負担とします。


7)技術指導

 そのプログラムの内容、対価の額によっても異なるであろうが、導入の援助についても取り決めておくほうがよい。

 文例6は、プログラムなどの譲渡にあたっての技術指導を定めたものである。

 <文例6>

 第○条                                  

1 本件プログラム等の導入にあたり、乙は、第○条に定める物件引渡し場所に担
  当者○名を、甲の施設内における拘束時間で1名につき延○○時間に限り技術
  指導のため無償で派遣するものとします。                   

2 派遣する日時等のスケジュールは、甲、乙協議して定めるものとします。   

3 第1項の技術指導は、本件プログラム等の使用についての口頭による説明及び
  実施演習であって本件プログラム等の変更の作業、援助は含まれません。    

 

 

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